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  <updated>2013-11-25T00:06:23+09:00</updated>
  <author><name>瑞樹</name></author>
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    <published>2019-01-05T20:24:56+09:00</published> 
    <updated>2019-01-05T20:24:56+09:00</updated> 
    <category term="雑多" label="雑多" />
    <title>氷漬けの朝</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[<div>　悲しみは人に覆いかぶさってくるものだと、誰かが歌っていたのを思い出した。</div><div>　薄い毛布に包まれた体をさらに小さく丸め、目覚めた私を待っていたのは朝の冷たい空気だった。瞬きのたびに意識が現実へと戻ってくる。夢の残滓を引きずりながら、私は自分が、自分のベッドにいるのだということを思い出す。</div><div>　ひやりとしたフローリングに足をつけ、つま先だけで歩いてそっと部屋を出た。静まりかえった家の中では呼吸する音すら嘘のように響くものだから、私はこれが夢の続きではないかとかすかなおそれすら抱いた。足が冷たい。指先が冷たい。全身から、熱という熱が消えてしまったのではないかと思うほど、すべてが冷たい。</div><div>　リビングにはやはり人はいなかった。同居人は仕事か、何かか、テーブルに置きっぱなしのマグカップだけがいたことを証明している。半分だけ閉じられたカーテンの向こう側からは真昼の日差しが降り注ぐ。だというのにリビングの空気は冷え切っていて、いっそう私を悲しくさせる。</div><div>　そうだ、私は悲しいのだ、と唐突に気付いた。起きる直前まで見ていた夢をひきずる私はいまだ、夢の中の私のままでいる。死人のように冷たい体で、氷漬けの部屋の中で一人、目覚めた私のままでいる。</div><div>　冷たい。</div><div>　冷たい。</div><div>　冷たい。</div><div>　悲しい。</div><div>　なぜこうも悲しいというのか。ただの夢だというのに。夢は終わったというのに。冷えた体を抱きかかえうずくまる。カーペットの織り目の正しさが目に沁みて痛む。凍えたつま先は青白く、息絶えたひとの色をしている。</div><div>　悲しい。</div><div>　悲しい。</div><div>　悲しい。</div><div>　するり。</div><div>　冷たい足にすり寄る気配が、私を現実に引き戻す。にゃあ。猫の声だと認識するまで数秒かかった。次いで、私の足へ堅いものがぶつかる感触がした。カーペットの上を悠々と歩く黒い毛並みに金色の目をした猫は、にゃあ、ともう一度、私の目を見て鳴いた。</div><div>　ぎこちなく両手を差し出せば、手のひらに頭をすり付けてくる。朝のあいさつだ。私によく慣れた猫は、出された手に頭をすり付けるのだ。黒いつややかな毛並みが一瞬でぼやけ、何も見えなくなる。</div><div>　抱き上げた猫は何もいわず、私の肩にあごをのせ、やがてすぐに喉を鳴らし始めた。ひなたぼっこをしていたのか、撫でた背中は熱いくらいの温度を持っていた。指を滑らせるたび、私の体に体温が戻ってくる。凍った体が溶けていく。ここは冷凍された人々のための墓場ではなく私の家のリビングで、私は冷凍された死体ではなく生きた人間で、私はひとりではなく、猫がいる。それだけだ。それだけの事実と現実が今、私の心を救っている。</div><div>　覆い被さっている悲しみをはぎ取るように、猫が私の肩に爪を立て、大きく口を開く。それはただのあくびだったが、確かに、私の夢の残滓をほろほろと崩していった。</div>]]> 
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            <name>瑞樹</name>
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    <published>2018-06-23T14:28:25+09:00</published> 
    <updated>2018-06-23T14:28:25+09:00</updated> 
    <category term="雑多" label="雑多" />
    <title>春の話</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[<div>　およそ二ヶ月ぶりの故郷の空気はまだ冷たく、雪の名残のにおいがした。</div><div>　十時間座り続けた腰の痛みと足のむくみによろめきそうになりながら、なんとかバスのステップを降り、乗務員に差し出された赤いスーツケースを受け取った。ちらりと覗いた荷室には、色とりどりのスーツケースが積み込まれ、最終目的地へ着くのを待っている。</div><div>　朝、七時手前。どうやらこのバス停で降りるのは私だけだったらしい。中年の乗務員と頭を下げあいながら、バスに背を向けおそるおそる歩道を歩く。溝の浅いブーツでは凍った地面を歩くには心許ない。吐く息の白さと、そこかしこに残る灰色の雪の塊に、私は自分の生まれ育った町を歩いているのだという漠然とした実感を抱く。くすんだ青白い駅舎の向こうには似たような色合いの空が広がるばかりで、昨日までいた東京の青空がまるで嘘のようだ。引きずったスーツケースの車輪の音と、私の慎重な足音、そして駐車スペースに停まる車のエンジン音に、夜行バスが走り出す轟音が混ざって遠ざかっていった。</div><div>　迎えの車は、駐車スペースの真ん中ほどに停まっていた。丸いフォルムの外観は遠目からも分かりやすく、メタリックブルーの塗装は寝起きの目にはなおいっそう鮮やかだ。運転席に座っている人影が確かに姉であることをみとめて、私は歩く足を早めた。</div><div>「おはよう。おかえり」</div><div>　助手席の窓を開けた姉は、二ヶ月前とさほど変わったようには見えなかった。かけられた言葉もいつも通りで、私は一瞬、返事に詰まる。</div><div>　ぽつり、と目の前に落ちてきたのは雨粒だった。ひえびえとした空気を切り裂くような雨粒に、春の穏やかさは欠片もない。開けられた窓の内側から、暖かな空気がそっと流れ出して私の頬を撫でていく。</div><div>「&hellip;&hellip;ただいま、ねえちゃん」</div><div>　微かなぬくもりに動かされるように、私はようやく言葉を返し、不器用に笑った。</div><div></div><div></div><div></div>]]> 
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            <name>瑞樹</name>
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    <published>2018-03-04T20:10:50+09:00</published> 
    <updated>2018-03-04T20:10:50+09:00</updated> 
    <category term="雑多" label="雑多" />
    <title>舞台の上</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[種をまくのに適したある日、近代的な図書館で面白くなかった芝居に興味があるふりをした話をしてください<br />さみしいなにか<br /><br />　丸い形をした図書館は、有名な建築家がデザインした斬新なデザインだそうで、そう言われれば斬新なんだろうなあ、とわたしは思う。円の中心に集うカウンターと閲覧席は、光を取り込むようにとられた窓のおかげでどこまでも明るい。その一方で、中心から外れた外周は背の高い書架と相俟って薄暗い。そこにいるといつだって、光に寄ることのできないかなしい生き物になったような気分になった。<br />　あるいは、そう。規則正しく並べられた書架の隙間から、光に照らされた中心部を覗くたび、眩いステージに立つ誰かのことを思い出す。そして、そのステージを眺めているしかできない、客席に座る誰かのことも。<br />　しゃがみこんだわたしの目に映るのは文学書の背中ばかりだ。欲しいタイトルは確かに覚えているのに、目でなぞっていくうちにそれを通り越してしまう。さまよう指先をひとつひとつ、本の背に押しつけては唇でタイトルを紡ぐ。幾度もそれを繰り返してようやくたどり着いた本の頭に人差し指の先端をひっかけ、そっと本の列から抜いた。<br />　ゆっくり立ち上がる。昼間だというのに薄暗い図書館の隅で覚えた立ち眩みは、わたしの目の前を一瞬だけ真っ白にした。スポットライトが当たった瞬間のような熱と眩しさはあっという間に過ぎ去り、ゆっくりと元の薄闇が戻ってくる。微かな頭痛に額をおさえたわたしの横で、その人はなんにも言わずにひっそりと立っていた。<br /><br />「探していたのは、それ？」<br />「うん。でも、もう一冊探さなきゃ」<br />「そう」<br />「先に閲覧席に戻ってて良いよ」<br />「ううん、待つよ。一緒にいる」<br /><br />　わたしの拒絶はいつだって受け入れられない。その陰にあるほの暗い感情を知ってか知らずか、横に立っていた男は薄く笑ったようだった。<br /><br />「それ、読みたかったのかい」<br />「うん」<br />「この前の舞台の原作だ」<br />「うん」<br />「あの舞台、気に入ってくれたの？」<br />「……うん」<br /><br />　嘘だ。ひきつりそうになる喉を必死に誤魔化しながら、わたしはその人に視線を向けないまま小さく頷いた。嘘だ。真っ赤な嘘だ。腕に抱えた本を抱きしめるふりをして力を込める。本に命があったならきっと、苦しいと泣き叫んでいただろう強さで絞め殺す。まったく面白くもなければ興味もなかった舞台の原作は、わたしのまったく見当違いな八つ当たりを受けて小さく軋み声をあげた。<br />　ふらりと一歩を踏み出したわたしの後ろをついてくる気配がする。どうやらわたしを一人にはしてくれないらしい。明るいところと暗いところの境界線を越えないように、足下にばかり目を向けていたわたしは、探していた書架を通り過ぎたことに気付いて緩慢に振り返った。そこにはやはり、わたしと数歩分の距離を置いた男が穏やかな表情で立っていて、少しだけ呼吸を忘れてしまった。光の射さない空間でも、この男はなぜこんなにもきれいな顔でいられるのだろうかと、抱きしめ続けている本に問う。答えは返ってこない。<br /><br />「どうしたの」<br />「なんでもない」<br />「そう」<br />「うん」<br /><br />　男の横をすり抜けて、書架と書架の間に逃げ込んだわたしの耳に届くのは足音だ。振り返らない。きっと男はあの、怒りも悲しみも喜びもない、ただただ穏やかな顔をしているだろう。舞台の上で演技している時の方がよほど人間的だ。舞台を降りたとたん人間らしさが鳴りを潜めてしまうこの男のことを、わたしは怖れている。なにをいってもなにをされても穏やかな表情を崩さない美しい男を、わたしはきっと、誰よりも怖れている。<br />　男がわたしの横に立つ。衣擦れの音に意識を向けないよう、さっきと同じことを繰り返した。目と指先でタイトルを一つ一つなぞりあげていくのは、まるで、人の背骨をなぞる行為に似ていると、ふと思う。あるいはあばら骨をなぞるそれか。ゆっくり一つずつ丁寧に、何一つ逃さないように。タイトルを音もなく読み上げながら、上の段から下の段へと移る。片腕で抱えたままの本はやがて、しゃがみこんだわたしの胸の下でつぶされた。<br />　やがて本の列から抜かれた一冊に、もう一度、男が笑う気配がした。<br /><br />「それも、僕が前に出ていた舞台の、原作だ」<br />「うん」<br />「あの舞台、気に入ってくれたの？」<br />「……うん」<br />「嘘だね」<br /><br />　なめらかに耳朶を打った声に顔を上げても、そこにあるのはいつもと変わらぬ穏やかな表情だった。きっとわたしは滑稽な顔をしていただろうに、その人はあざ笑うことも嫌悪することもなかった。ただ、わたしと同じようにしゃがみこんで、その美しい顔をそっと近付け囁いた。<br /><br />「その本の舞台だって、君の興味を引いた訳じゃないんだろう」<br /><br />　無言を貫くわたしの心など、きっとこの人には分からないだろう。いつだって穏やかな顔を崩さない男が唯一泣き叫び、怒り、喜びに笑う瞬間を、薄闇の中から見つめることしかできない空しさなど。眩い光の中で誰かと抱き合う瞬間に強く唇を噛みしめる悲しみなど。こんなにも近いのに、どちらかがバランスを崩した瞬間に触れあってしまいそうな距離なのに、指先さえ動かすことのできない苦しみなど。<br />　わたし自身のこころに雁字搦めになってしまった体では、どんな言葉も無意味だ。だからわたしは本を抱きしめ続ける。本当に抱えたいものの代わりに、わたしはこの両腕で、忌まわしいラブストーリーを絞め殺すのだ。<br /><br />「うそつき」<br /><br />　ほとんど声にならなかった囁きにどんなに男の心が籠もっていたとしても、わたしのこの心は救えない。]]> 
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            <name>瑞樹</name>
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    <published>2017-09-23T20:36:42+09:00</published> 
    <updated>2017-09-23T20:36:42+09:00</updated> 
    <category term="奇談" label="奇談" />
    <title>生落ファフロツキーズ2</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[　落ちてきた足を目の前に、情けないことに僕は突っ立ったままだった。必要なことをやったのはすべて黒崎だ。あらかじめ用意していたカメラで足を撮る。まずは僕らが立っている位置から。少し近付いて。角度を変えて。最終的に、目視で足の爪の色と長さの確認が出来るくらいの距離で。<br />　それが終わると、黒崎はあっさりとした様子で、帰ろう、と言った。僕は錆びた機械のような動きで頷いて、来た道をそのまま戻った。相変わらず鳥肌が立つほどの寒気に襲われた、色のない景色は、帰る時にはあっという間に過ぎていった。あんなに汗をかいた坂をやや早足気味に降りれば、そこには古びたバス停がぽつんと佇む、普通の町外れの景色に戻る。<br />　そんなに本数のないバスを待つのは効率的ではないし、無駄なお金を払えるほど、高校生の財布事情は明るくない。僕と黒崎は、バス停の後ろの草むらに置いていた自転車に乗って、街へと向かう。じりじり焼き付ける太陽に、ようやく夏の景色を思い出して安堵を覚えた。自転車を漕げば漕ぐほど、音が、色が、においが、気配が戻ってくる。僕のよく知る普通、あるいは日常、そういうものが、あの廃墟の記憶をすべて覆い隠してくれるような気がした。<br />　自転車で向かうのは住宅街だ。一軒家やアパート、マンションが密集する地域は、真夏の昼となれば人通りはあまりない。あっさりとたどり着いたのはいかにも高そうな一軒家だ。事実、この一軒家の住人は相当なお金持ちであることを、僕は知っている。<br />　閉ざされた大きな門に備え付けられたインターホンを鳴らす。一回ではなく、続けて二回。三秒間を空けて、もう一回。それが合図だ。インターホンに答えることなく、門の鍵が開く。<br />　門をくぐれば庭がある。よく手入れされた、上品な庭の奥には、やはりきれいに掃除された玄関が待ち受けていた。さっきまで見ていた廃墟とは大違いの清潔さは、どう言うわけか逆に息苦しい。来るものを拒むという意味では、あの廃墟と同じだからなのかもしれない。<br /><br />「おーい、来たぞー」<br /><br />　気後れしている僕とは正反対に、黒崎は友人の家に上がり込むよりも気安く声をかけ、あっさりと玄関を開けてしまった。あわててその後ろに続く。<br />　<br />]]> 
    </content>
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            <name>瑞樹</name>
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    <published>2017-08-18T22:38:18+09:00</published> 
    <updated>2017-08-18T22:38:18+09:00</updated> 
    <category term="奇談" label="奇談" />
    <title>生落ファフロツキーズ</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[もしも今、誰かに、一週間前に戻りたいかと言われたら、僕は悩む間もなく頷くだろう。そして声を大にして叫ぶだろう。一週間前に戻してくれ。そうしたら僕は、僕自身を殴ってでも止めるから。とんでもないものに手を出そうとしている大馬鹿野郎を、気絶するまで殴ってでも止めさせるから。<br />
　そうはいっても、僕にそんなことを言ってくるやつはいないし、いたところで誰も一週間前まで時間を巻き戻してはくれないだろう。大きくため息をつく。幸い、僕の数歩前を歩く白い背中は変わらぬスピードで坂道を先行する。こちらを振り向きもしない、細い背中と燃えるような赤毛は何も語ってくれない。それもそうだ。僕らは別に、親しく話し合うような間柄でもない。ましてや、一週間前に戻りたいかだなんて、軽口にもならない問いかけをしてくれるような間柄など。<br />
　僕と、僕の前を行くその少年の間柄を言葉にするならば、同僚、だろうか。あるいは、共犯者だろうか。同じ学校の同じ学年の、時々廊下ですれ違う他人と言うには少し、後ろめたい。僕らの足元には秘密が転がっている。<br />
<br />
「ゼロ」<br />
<br />
　不意に少年の掠れた声が聞こえて、一拍遅れて僕は、ああ、と答えた。ゼロ。この同僚であり共犯者であり同じ学校の同じ学年の他人は、僕をそう呼ぶ。<br />
<br />
「着いたぞ」<br />
<br />
　汗でじっとり濡れた背中が振り向いて、真っ黒な目が僕を射抜く。鮮烈な赤毛も汗で濡れているのか、真夏の日差しを浴びて艶やかに揺れた。<br />
　振り向いた彼の背後には、古びたコンクリートの建物が立ちはだかって僕らを睨み付けていた。<br />
<br />
「&hellip;&hellip;着いちゃったか」<br />
<br />
　ぽつりと呟けば、彼はなんとも言えない表情で、左手首に巻いた腕時計へ視線を落とした。僕も一緒になって、盤面の白い腕時計を覗き込む。午前１１時４１分。目的の時間まであと１９分。<br />
<br />
「あのさあ、黒崎」<br />
<br />
　二人並んで、来る者をひたすらに拒む様相を呈した建物に睨み付けられながら、僕は空白を埋めるように隣の彼に声をかけた。返事はない。<br />
　誰も来なくなって久しい町はずれの山の上、そこに物言わず腰を下ろしたコンクリートの建物は、真夏の彩度の高い緑に囲まれながらもそこだけが異様にモノクロだった。壁を這う蔦の緑も、手入れされない庭で咲き続けるひまわりの黄色も、何もかもすべてが色あせて見えた。異質だ。異様だ。そうとしか表現できないこの敷地内に、僕らは入らなければならない。この建物に囲まれた中庭へ、足を踏み入れるのだ。<br />
　ふらりと歩き始めた同僚、黒崎の後ろをよたよたと追いながら、僕は自分の顔から血の気が失せていくのを感じていた。<br />
<br />
「今日もやっぱり、落ちてくるのかな」<br />
<br />
　ああ、吐きそうだ。気持ち悪い。怖い。そうだ、怖い。こんなところに来ちゃいけない。分かっているのに行かなきゃいけない。一週間前に戻りたい。こんなところで、あんなものを見なきゃいけないと分かっていたなら、僕は絶対頷かなかったのに。<br />
　でも、後悔してももう遅い。<br />
<br />
「落ちてくるんじゃないか、今日も」<br />
<br />
　言葉少なに答えた黒崎の声はやはり掠れていた。この暑さで喉が渇いたのか、それとも緊張か。だがその暑さも、敷地内に足を踏み入れれば踏み入れるほど不自然なまでに消えていく。あれだけ体を濡らしていた汗が引いていくのが分かる。寒気すら感じるほどで、僕は自分の体を抱くように二の腕を掴んだ。手のひらはまだ、熱い。<br />
　建物の中には入らない。そもそも入れない。町はずれにある廃墟といえば大体は噂に背びれや尾びれがついて、最終的には肝試しに最適なスポットとなり果てると思うのだが、この建物についてはそれが当てはまらない。つまり、玄関も一階の窓ガラスもどこも割れていない。遠目から見ても、玄関にはご丁寧にチェーンと南京錠がかけられているようだった。僕も黒崎も、玄関を開けるための鍵までは預かっていない。<br />
　中庭に行くには建物をぐるりと回ればいい。この建物は、大雑把に言えばコの字型をしているから、中庭に行くルートは単純だ。強いて言えば、今まで誰も手入れをしていなかったせいで雑草が生い茂り、ひどく歩きにくい。身の丈ほどもある雑草を腕で払っていると、ちくりと痛みが走った。どうやら鋭い葉で切ったようだった。思わず舌打ちをしそうになるのを堪えて、前を行く背中を追うことに集中する。<br />
　黙々と歩を進める黒崎は、この寒気や恐怖を感じていないのだろうか。一週間前、初めてここに来た時から、彼は大きな動揺を見せていなかったと思う。真っ正直に恐怖を訴えた僕を笑うでもなく、じゃあ俺が前を歩く、と言った彼の表情は窺えない。それが頼もしくもあり、同時に不気味だった。僕が追う少年は本当に、坂道を一緒に歩いてきた少年なのかという疑念がむくむくと起き上がってくるのだ。それを振り払うように、彼の燃えるような赤毛を見ては、気付かれないように深呼吸をする。<br />
　中庭にはあっという間に到着した。二人そろって腕時計を見る。午前１１時５８分。ちょうど良い、といったところか。<br />
　残りの二分は、まるで永遠のように緩やかに進んでいった。高鳴る心臓は一生分、その鼓動を刻んだかもしれないと思ってしまうくらい、長い、長い二分だった。<br />
　時計の短針と長針が重なり合う。その瞬間を、僕らは見る。<br />
<br />
「――あ」<br />
<br />
　声を漏らしたのははたしてどちらだったのか。僕らはそろって、建物の屋上から落ちてきたものが、重い音を立てて地面に衝突する瞬間を見ていた。<br />
　中身の詰まった重い紙袋を落としたような鈍い音がする。潰れるような水音はしなかった。だからとって、落ちてきたものが、ただの重い紙袋であるはずもなかった。<br />
　僕らは知っているからだ。この夏の間、数日ごとに、建物の屋上から落ちてくるものの正体を。<br />
　体中が震えていたけれど、それでも僕は近づかなければならなかった。くらくらする。世界が回っている。足取りは重い。そして鈍い。規則正しい足音は黒崎のものだ。盗み見た横顔は思ったよりも血の気が失せていたけれど、きっと僕よりはよほどましだ。<br />
　距離、おおよそ１０メートル。それだけ離れていても、僕と黒崎には、地面に衝突したなにかが見えていた。<br />
　生い茂る草はその周囲だけまるで、上から力をかけて潰されたかのように倒れている。スポットライトが当たった舞台とはこのようなものなのだろうか。もしくは、美術館の特別展示のメインか。それにしたって趣味の悪い舞台だし、特別展示のメインにするにはあまりに生々しい。<br />
　倒れ伏した雑草の中心に落ちているのは、人の足だ。成人の、男か女かは分からない。だが、足だった。付け根からつま先まで、何一つ傷のない、白く生々しい、人の右足。<br />
　僕らの足元に転がっている秘密は物も言わず、現実感のない白さでそこにある。<br />
<br />
<br />
※１０年くらいの時を経て、ゼロと黒崎の出会いを考えてみた。]]> 
    </content>
    <author>
            <name>瑞樹</name>
        </author>
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    <id>bernadette91.blog.shinobi.jp://entry/65</id>
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    <published>2017-07-16T22:42:33+09:00</published> 
    <updated>2017-07-16T22:42:33+09:00</updated> 
    <category term="雑多" label="雑多" />
    <title>逃避行未満</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[親を殺したその日、家にプリントを届けに来たクラスメイトに、私はすべてを打ち明けた。<br />
　髪をそれとなく茶色に染めて、化粧品で上手に色を付けたクラスメイトは、私の唐突な言葉に、大きな目をぱちりと瞬きさせた。黒く長い睫毛とグラデーションの瞼が印象的な瞬きだった。<br />
<br />
「殺した？　親を？」<br />
「&hellip;&hellip;うん」<br />
「じゃあ、家の中に、その、親の死体があるってこと？」<br />
<br />
　親の死体を、のところを小声にして聞いてきたので、私は神妙な顔で頷いた。<br />
　なんだかもう、どうでも良かったのだ。本当に、もう、どうにでもなってくれれば良いという気分だった。親を殺したのは深夜の２時頃で、クラスメイトがやってきたのは午後の４時だから、ゆうに１４時間は経っている。それだけの時間が経ってしまったから、人を殺した瞬間の興奮や、その直後の後悔も何もかも、私は噛み砕いて呑みこんでしまっていた。後に残るのは無気力だ。私の部屋のベッドで無残に死んでいる親から目を逸らそうが眺めようが、死体は死体のまま、何も変わらない。そうと気付いてしまえば、自分の衝動任せの行為を隠すのは無意味だという諦めはすぐに生まれてきた。<br />
　そういうわけで、クラスメイトに警察を呼ばれても良かったし、恐怖に悲鳴を上げられても良かった。そういう諦めだった。<br />
　ところがクラスメイトは、頷いた私をじっと見て、そのまま黙り込んでしまった。予想外の反応に、声を掛けようか、どうしようか、と少し悩む。とはいえ、かける言葉は特になかった。仕方なく一緒になって黙り込んでいると、クラスメイトはそれまでの沈黙がなかったかのように、いつも通り、プリントを届けに来たと言う時の声色で提案してきた。<br />
<br />
「じゃあさ、京都に行こうよ。旅行」<br />
<br />
　今度は私が黙り込む番だったが、結局それも長く続かず、私はなんとなく、神妙な顔で頷いた。<br />
<br />
<br />
※少女と少女の逃避行にもならない京都旅行。<br />
※少女Ａ&hellip;親を殺した。外見が地味。少女Ｂ&hellip;化粧も髪染めも悪いこともする。<br />
<br />
<br />
１）京都旅行準備編<br />
・貯金額の確認と、いったん家に帰って荷物詰めてくる<br />
・服、地味なのしかないなら貸してあげる<br />
・せっかくだから化粧をする<br />
・初めて新幹線の切符を買う<br />
・二人並んで京都行の新幹線に乗る<br />
<br />
２）京都到着編<br />
・着いたら深夜だけど泊まるところがない<br />
・Ｂが途中からずっと携帯をいじっていた<br />
・ついてきて、というからついていったら、ラブホテルだった<br />
・泊まるだけならいけるいける、とのこと<br />
・その晩は一つのベッドに二人並んで寝ることにした<br />
・どうしても眠れなくて、一人、床に転がって寝る<br />
<br />
３）旅行の朝編<br />
・なんで床で寝てるの、という笑いから始まる<br />
・ホテルを出て、適当な喫茶店に入って行き先を決める<br />
・ところでなんで京都旅行なのか<br />
<br />
４）旅行の昼編<br />
・嵐山<br />
<br />
５）旅行の夜編<br />
・今度はきちんとホテル（ビジネスホテル）をとる<br />
・ツインルームなのでベッドは別々<br />
・ホテルは２泊とった<br />
・Ｂが携帯の電源を切る<br />
・Ａは携帯を持っていないので、これ以降は観光マップ頼り<br />
<br />
６）二日目の朝編<br />
・行き先はあっさり決まったので、二人並んで宿を出る<br />
・伏見稲荷に朝から行く<br />
・鳥居をくぐっていく時の不安<br />
・山登り<br />
・実を言えば、私、<br />
<br />
７）二日目の昼編<br />
・清水寺<br />
・舞台の上から景色を眺める<br />
・観光客の声を聴きながら、二人で並んで、こそこそと内緒話<br />
<br />
８）二日目の夜編<br />
・その日は一つのベッドに入って、抱き合って眠った<br />
<br />
９）三日目の朝編<br />
・荷物はすべてコインロッカーに預けてきた<br />
・どこに行こう<br />
・どこでも良いよ<br />
<br />
<br />
]]> 
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            <name>瑞樹</name>
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    <id>bernadette91.blog.shinobi.jp://entry/64</id>
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    <published>2017-06-17T09:57:50+09:00</published> 
    <updated>2017-06-17T09:57:50+09:00</updated> 
    <category term="雑多" label="雑多" />
    <title>バグ</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[　人にはきっと、ラベルが必要だ。個人名だとか外見の特徴だとか、そういうものではなく、どんな集団に所属している存在なのか、どの集団がその人の基準になっているのか、という、ラベルが必要だ。たとえばサラリーマンだとか。たとえば電車の乗客だとか。そういう、曖昧で、意味が広くて、でも確かに、その集団の構成員なんだと分かるような、そういうラベルが。<br />　わたしにはすでにラベルが貼られている。いわく、「女子高生」。ちょっと短いスカートに、背伸びしたような化粧品とかわいらしい持ち物を持った、女子高生というラベルが、きっと、わたしの全身には貼られている。視界を邪魔しない程度に隙間なく貼られたわたしのラベルは標準的だ。どこもおかしくない。人混みに紛れてそのまま大きな事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまうような、映画のエキストラのような、風景の一部だ。それが、わたしが愛してやまないラベルのはずだった。<br />　それを剥がそうとする手を、わたしは許さない。そんな話をしたときに、男が真っ先に発した言葉は「馬鹿だな」という一言だった。<br /><br />「いずれお前もこうなるよ」<br /><br />　疲れ切った顔をした男はそう言って、いやらしく笑ってみせた。わたしが一番いやな顔だ。ひたすらにもがく人間を、何もかも知っているような目であざ笑う。馬鹿だ、無駄だ、滑稽だ、とわたしを否定する言葉が銃弾になってその辺りを飛び交うのだ。<br />　いずれそうなる？　どうなるというの？　わたしも、あなたのように、あなたたちのように、諦めきった顔で全部受け入れて、通り過ぎる人たちをただ黙って眺め続けるような、そんなものになるというの？<br /><br />「いやだ」<br /><br />　そんなものにはなりたくない。血を吐きながら首を横に振ると、視界の端に奇妙に折れ曲がった白い手足が見えた。体中が痛い。そして熱い。さらに目を遠くへ凝らすと、見慣れたスクールバッグが中身を吐き出して転がっているのも見えた。お気に入りだったティント・リップや香水は、車とぶつかった衝撃で割れてしまったに違いない。<br /><br />「いやだって言ったっておまえ、本当に、馬鹿だな」<br /><br />　人の声が聞こえる。おい大丈夫か、これはもうダメだ、車のナンバーは、しっかりしろ、救急車を、いや警察だ、誰か、誰か、誰か。男も、女も、年齢もばらばらの人たちが必死な顔でわたしの周りでざわめいている。<br />　死にたくないなあ、と思う。そう思ったのが分かったかのように、やっぱり男は笑うのだ。人混みの中、私を助けようと必死な人たちに紛れて、でも誰にも気付かれないまま。<br /><br />「そんなになっても死なないんじゃあさ、何やったって無駄だよ」<br /><br />　誰も彼もが、男の方など見向きもしない。うすら笑った顔色の悪い男など、この世界に存在しないのだと言うかのように。<br />　向こう側からサイレンが聞こえる。救急車がきた、もう大丈夫、あと少しがんばるんだ、必ず助かるよ、そんな慰めの言葉が私に降り注ぐ。言っている人々は誰も、それが真実だと思っていない。分かっていながら嘘をつく。大きなトラックにひき逃げされた哀れな女子高生はもう助からないと、分かっていながら希望を吐き出す。沈痛な顔。今まで何度も見てきた、何度も繰り返してきた光景だ。彼らは何も知らないから、そんなことを言えるのだ。<br />　死にたくない、と必死に呟けば、やっぱり口から血が溢れてきた。一番近くにいた男の人が悔しそうに顔を歪めて、必死に涙を堪えていた。三文芝居だな、と嘲る声は聞こえなかったことにした。<br />　救急車に乗せられたわたしを追うように、男はあっさりと同乗してきた。救急隊員はやっぱり男の存在など知らない風に動いて、わたしに声をかけ続ける。その目にも諦めが浮かんでいるのが分かって、だったら最初から無駄なことなどしなければいいのに、と思った。死ぬって最初から決まっているのなら、下手な慰めなんてむしろ残酷だ。その残酷さが刃となって、わたしの心をずたずたにしていく。<br />　何度繰り返したって痛いのはいやだし、死ぬのは怖い。死にたくない。わたしはいつだって、恐怖に押しつぶされそうだ。何をどうやったって死なないと分かっていても、それを証明したくて仕方がないし、それが正しいんだって証明されたところでわたしの死への恐怖は変わらない。むしろ証明されればされるほど、わたしは死ねないのだという事実が圧倒的な絶望感となって体を蝕んでいく。<br />　おまえはバグだよ、と男は言った。この世界に存在する無数のバグのうちの一つだよ、と。おれが誰にも見えないのと同じように、だんだん、だんだん、普通の人間の中から弾かれていくんだ。<br />　いやだ。わたしはならない。そんなおぞましいものにはならない。わたしはこの世界のバグなんかじゃない。わたしは普通の、ただ死ぬことが怖いだけの、ふつうの女子高生だ。体中にべたべた貼り付けたラベルをこれ見よがしに提示して、わたしは普通の人間として振る舞うのだ。ああ、けれど、こんな怪我をして、こんなに汚れているんじゃ、この制服はもう着られない。アスファルトで擦ってしまった短めのスカートも、道端で死んだスクールバッグも、もうわたしを守ってくれない。ラベルを、貼り直さなければいけない。<br />　かわいそうに、と疲れ切った顔で男は言う。そんなこと、これっぽっちも思っていないくせに。]]> 
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            <name>瑞樹</name>
        </author>
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    <id>bernadette91.blog.shinobi.jp://entry/63</id>
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    <published>2016-08-23T16:39:28+09:00</published> 
    <updated>2016-08-23T16:39:28+09:00</updated> 
    <category term="雑多" label="雑多" />
    <title>いずれ死にゆく世界</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[実はちゃんと作ってるんだけど、それに関する話をほとんど書いていないから分からない世界観の説明をどこかでするべきだと思ったので、覚え書き程度に書いておく。<br /><br />・とある病から滅んでいく世界<br /><br />現代から地続きの世界観。<br /><br />①遺伝子操作により、産まれてくる子供の容姿を選べるようになった時代。<br />②睡眠時間が長くなり、やがて死んでいく「死眠病」が蔓延し始める。「世界の果ては青色をしている」はこの世界の初期段階。<br /><br />□死眠病<br />睡眠時間が長くなる。ナルコレプシーのように、日常生活の中で急激な眠気に襲われてそのまま眠ってしまう、というのが初期症状。ナルコレプシーと違うのは、その後は徐々に睡眠時間が長くなり、起きている時間が極端に短くなる。段階が進むごとに身体機能の低下が起こる。難聴や幻聴、幻覚という症状も見られる。最終的には眠ったまま体が機能を停止していき、死に至る。原因不明。罹患者は遅かれ早かれ眠り続けるようになる。<br /><br />③それとほぼ同時期に「羽化」という現象が世界各地で見られるようになる。羽化は基本的に第二次性徴を迎える前の子供に起こり、その名の通り、背中に翼が生えることから羽化した子供を「天使」と呼ばれることがある。<br /><br />□羽化<br />第二次性徴を迎える前の子供を中心に起こる現象。背中から白い翼が生える。背中の違和感や発熱、倦怠感が主な症状。原因不明。遺伝子の問題とも言われているが、世界各国、人種の区別なく起きる現象のため、結局解決策は何も見つからなかった。<br />なお、羽化した子供は成長＝老化が極端に遅くなるほか、背中に異物があるという状況から日常生活を送ることがきわめて困難。事態を重く見た各国の働きかけによって、羽化した子供を収容する施設が建てられる。この翼では飛ぶことは出来ず、ただのお飾りと言って良い。<br /><br />④羽化した子供たちを「天使」として崇拝する宗教団体が現れ始める。死眠病は、生まれる命に手を加えた人間への神からの制裁であり、新しい人類として天使を遣わしているのだ、という教義。次第に受け入れられ始め、一つの都市を作るほどになる。<br /><br />□宗教団体<br />羽化した子供たちを収容していた施設が立ち行かなくなり始めると、それに代わって羽化した子供たちを集め、独自の施設に迎えるようになる。子供たちは天使と呼ばれることになるが、実際は研究対象であり、洗脳によって都合の良い偶像あるいはモルモットとして生きることになる。<br />団体の最終目標としては天使になることがあげられる。そのために羽化した子供たちの研究が進められている。<br /><br />⑤死眠病患者の冷凍保存が行われるようになる。<br /><br />⑥宗教団体の企みにより文明が崩壊し始める。国家の崩壊。都市という形で残るか、そもそも滅びるか。<br /><br />⑦数百年単位が経ち、それなりに平和にはなるが、天使は一つの種族として存続し、都市を形成している。各地に都市国家が点在し、それなりに人間が生きている。死眠病は発病者は減っているものの、未だ蔓延している。現在の拍手ページに載せている話の世界観はこの時点。<br /><br />以上。いつかちゃんと書きたい。]]> 
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            <name>瑞樹</name>
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    <id>bernadette91.blog.shinobi.jp://entry/62</id>
    <link rel="alternate" type="text/html" href="http://bernadette91.blog.shinobi.jp/%E5%A5%87%E8%AB%87/%EF%BC%97%E6%9C%8829%E6%97%A5%E5%8D%88%E5%89%8D11%E6%99%8228%E5%88%86" />
    <published>2016-08-18T22:51:23+09:00</published> 
    <updated>2016-08-18T22:51:23+09:00</updated> 
    <category term="奇談" label="奇談" />
    <title>７月29日午前11時28分</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[　７月２９日の、午前１１時２８分。田舎によくある無人駅の、上り線のホーム。いつの頃からかは知らないが、必ずその日、その時間に、立ち尽くす男がいるという。<br />　白いシャツ、黒いスラックス、黒い革靴。手には花束を持ち、時間を気にした風に、こじゃれた腕時計を何度となく見る。整えられた黒髪に、まだ若い顔立ちの、男がそこに立っている。<br />　私の視線に気付いた風に、俯き加減だった男がふと顔を上げたかと思うと、その黒い目でこちらを見た。この暑い中汗の一つもかかぬ、真白い顔だった。<br /><br />「やあ、今年も会ったな。相変わらずの顔だ」<br /><br />　にっこり笑った男はまるで、昨日ぶりに会った友人に話しかけるような気軽さで私に声を掛ける。私は無言のまま小さく会釈し、男から少し距離をあけて同じように立ち尽くす。今年もまた会った。一年ぶりに顔を合わせた男は去年とまったく変わらぬ様子で、次にくるであろう電車を今か今かと待っていた。<br />　電車はきっかり１０分後、１１時３８分にくる。この男は律儀なようで、必ず１０分前にこのホームに来る。赤い、気障ったれたバラの花束を持った男は、不安と緊張と期待の入り交じった顔で、電車を待つ。<br /><br />「しかし君も物好きだなあ。去年も、一昨年も、その前の年もそうだった。君もおれと同じように、誰かを待っているのかい」<br /><br />　ええ、まあ、と濁しておく。毎年のことだ。７月２９日の、午前１１時２８分。その瞬間を待って、私はこの無人駅の上り線のホームに足を踏み入れる。男の黒い目は私をじっと見つめていた。それを感じながら、私は黙って線路を睨みつける。祖母譲りだという切れ長の目は、鋭さを増していることだろう。それもまた、毎年のことだ。すべて、すべて、毎年のことだ。<br />　男が誰かを待っているというのならば、私もまた、待っているのだろう。ただしそれは人ではない。何かの事象、現象、あるいは遠い昔の約束が、姿形を持って現れるのを待っている。それを男に話したところで、特に何の意味もない。理解されようとも思わない。説明する気はさらさらなく、それ故に私は黙り込む。男の発した言葉にはそれよりも少ない言葉で返し、時には沈黙でもって答える。何年も続いた言葉の投げかけと沈黙は、男と私の間に、どんな親愛も関係性も生むことはなかった。誰かを待つ男と、何かを待つ私。二つの存在が７月２９日、午前１１時２８分に、とある田舎の無人駅、上り線のホームで出会う、ただそれだけの事実が並んでいるという光景がすべてだった。<br />　男が黙れば、必然、そこには静寂ばかりが座り込む。遠くで蝉が鳴く声も、風が緑の葉を揺らす柔らかな音色も、昼食を作る生活の吐息も、聞こえながらも静寂に呑み込まれる。<br />　そうしている間に各駅停車の上り電車はやってくる。線路の向こうにゆらゆら揺れながら走ってくる電車に、男は俯かせていた顔を上げ、そこに期待と不安を滲ませる。かさかさと、透明なセロハンで包まれた花束が音を立てた。赤いバラの花びらが一枚、ひらりとホームへと落ちたのが見えた。<br />　電車は私や男の思いなど知る由もなく、いつものルーチンワークをこなす。風を呼びながら走り抜け、ブレーキをかけ、決まった場所で停車する。田舎の電車のドアは自動では開かない。内側か外側のボタンを押して、降りる人、乗る人が、自分から開けるものだ。男はじっと、２両しかない電車を見つめていた。誰かが降りてくるのを待つかのように。誰かが、内側のボタンを押して、電車からホームへ足をそっと降ろすのを見逃さんと言わんばかりに。<br />　だが、電車のドアはどれも開くことはなく、何事もなく轟音を立てながら走り去っていった。夏の熱い空気を巻き上げ電車はあっという間に小さくなっていく。見えなくなるまで目で追いかけていると、少し離れた先に立っていた男が、ふ、と軽いため息をついたのが分かった。<br /><br />「……ああ、そうだよなあ」<br />「……」<br />「そうだ、それで良いんだ。ああ」<br /><br />　花束を持った手をだらりと垂れ、男は空を仰ぐ。ホームを覆う屋根の向こう側は、目が眩むほどの晴天だった。<br /><br />「良かった、今年も君は、来なかったんだな、ミツ」<br /><br />　喉を反らして空を見上げる男の横顔に、安堵とも失望ともとれる笑みが浮かぶ。満足げな声色は、予定調和を見守る者のそれだった。１１時３８分着の電車が無事過ぎ去った。それはつまり、男の目的の一つの達成なのだ。<br />　間抜けなほどに上を向いていた男が、ぐるりと勢いよくこちらへ顔を向けた。黒い目にはぎらぎらとした光が宿り、この暑さに一筋の汗もかかない白い頬は、誰かに語りたくて語りたくて仕方ないという思いを男の周りに散らしている。沈黙を貫く私に、男はさながら機関銃のような勢いで言葉を連ねた。<br /><br />「今年もミツは来なかった。おれの恋人、いや、愛人、いや、おれの思い人。ミツ。ミツは来なかったんだ」<br />「……」<br />「ああ、去年も言ったな君に。君に似た、涼しげな目元のひとなんだ、ミツは。いつもぬばたまの黒髪をひとつにひっつめて、古くさい色の着物を着た、料理の上手い女なんだ」<br />「……」<br />「君の目は本当によく似ている。おれがいくら愛を告げても、体に触れても、ミツはその目で俺を見るだけなんだ。一度としてあいつからおれに触ってはくれなかった」<br />「……」<br />「もの静かな女でな、自分の縁談が持ち込まれたときだってその鉄面皮を少しも動かさなかった。おれは何度も言ったのに。それは幸せになれないって。そんな結婚はミツの幸せにならないって言ったのに、あいつは泣きも笑いもしなかったんだ。知っていますって、それだけ言ってさ」<br />「……」<br />「だから、一緒に、誰も知らない土地に逃げて幸せに暮らそうと一端だ。７月の２９日の、１１時２８分の上り線、そこで待っているから来てくれと言ったんだ。そうしたら一緒に乗ってどこまでも逃げようと。だが、来なかった」<br />「……」<br />「そうだよな、ミツ、お前は来ないんだ。どんなにお前がおれのことを愛していても、こんな軟派な男のことを愛していても、お前はおれと一緒には来ないって。おれがどれだけお前のことを好きだって分かっていても、お前は絶対に、おれの思いを受け取ってはくれないって」<br />「……」<br />「そういう女なんだ。あいつは。ああ、ああ、良かった、今年もおれの元へは来なかった。そうだ、おまえはそうじゃなきゃ。ミツ。ミツ。おれの思い人。美しい女。おれへの愛を抱えながら、一度もおれに靡かなかった女。おれの元に来ない、それこそが、おまえの愛情なんだ」<br /><br />　もはや男は私には言葉を語っていない。男は、男自身に語り聞かせているのだ。端から見れば、己を納得させようとしているような姿だろう。狂人じみた語り口に、ぎらぎらと凶暴な光をちらつかせた目が、男が正気の沙汰ではないと告げている。私はただ、少し離れたところに立ち尽くし、男を見ていた。<br />　男は人を待っているという。それは確かに真実だろう。だが、回答で言えば半分しかあっていない。男は、誰かを待ちながらも、その誰かが来ないことを確かめるために待っている。分かり切った答えが分かり切った結果になることを知るために、何度も何度も何度も何度も、同じ日の同じ時間に同じ場所にやってくる。男の予想は的中し、それこそが正しい世の摂理だと満足げに頷くかのように、男は待ち人が来ないという事実を確かめ続ける。<br />　男が、抱えていた花束を地面に振りかざし、力を込めて叩きつける。セロハンが豪快な悲鳴を上げ、瑞々しい花がつぶれる生々しい音がした。男が花束を、よく磨かれた革靴の底で踏みつけたのだ。バラは踏まれれば踏まれるほど強く香る。踏みにじりながら男は何事かを唱えていた。その一つ一つを耳に入れるだけの興味はなく、私は淡々と、男が奇行に走るのを眺めていた。<br /><br />「……あんた、いつになったら成仏するんです？」<br /><br />　これも、毎年のことだ。私の不意の一言に、男は電池が切れたかのように花束を踏みつけるのも、ぶつぶつ何事かを呟くのも止めた。狂気を浮かばせた表情から一点、その顔には穏やかさが広がっていた。緩やかに死にゆく人の、諦めの混ざった、優しい笑みだった。<br /><br />「いつまででも。ミツが来ないことが分かる、そのときまで」<br /><br />　男は知らない。男が愛した女はやがて子をもうけ、孫の手を引いてこの駅まで、かつて愛した男を弔いに来ていたことを。<br />　男は知らない。男が愛した女はいつの日か、男が待ちかまえる駅の手前で、男が待ちかまえる電車に轢かれて死んだことを。<br />　それは男への贖罪だったのかもしれないし、彼女なりの矜持の示し方だったのかもしれない。たとえどれだけ愛した男だろうと、お前のところには行かないと、お前の手を取りすべてを捨てて逃げるような惰弱な真似はしないという、決意の表れだったのかもしれない。いずれにせよ、男の待ち人は二度と、この駅には来ない。ましてや、電車に乗って男を迎えに来ることなど。<br />　いつの間にか、男は消えていた。そこには落ちたバラの花束も、散った花びらのひとひらも、残されてはいなかった。<br />　愚かな男だと、私は毎年のように思う。なんて愚かなのだろうと、笑いすら出てこない。そんなにも愛しているならば、迎えに行ってやれば良かったのに。無理矢理にでも連れ去って、そうしてどこまででも、逃げていけば良かったのに。結局最後まで待つことしかできなかった男は、ただ、それまでの存在だったのだ。だからこそこうして何十年も同じことを繰り返している。愛した女がいつまで経っても己の元へやってこないと言う事実に、わずかながらの愛情を見いだしては縋る。男の中の、ミツという女の偶像に縋り続ける。どれだけ愛を告げてもそれに答えず、己を愛していながらも一度として自分から男に触れることの無かった、目元の涼やかな黒髪の乙女という偶像に。<br />　男はもはや、ミツと呼ぶ女の姿も思い出せていないだろう。私はただ、祖母譲りだと言う切れ長の目をこする。夏の幻はあっという間に消え去り、向こうのホームでは次の電車が来るというアナウンスが響く。これで終わりだ。私の今年の役割は、これで終わる。<br /><br />　そうして私は花束を握りしめたまま上り線のホームを出る。下り線の電車の到着は近い。<br />]]> 
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            <name>瑞樹</name>
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    <published>2016-06-04T15:44:35+09:00</published> 
    <updated>2016-06-04T15:44:35+09:00</updated> 
    <category term="奇談" label="奇談" />
    <title>プライベート・ミュージアムにて４</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[＜黒崎＞<br />
・１７～○歳。基本的に高校生のイメージ。<br />
・館長へはわざと砕けた敬語を使う。<br />
・「俺」「あんた」「お前」「君」<br />
・髪の毛が生まれつき赤い。目は黒系。身長はそれなりにある。数学が苦手。得意科目は英語と国語。<br />
・１０～１６歳の間に、一年ほどイギリスにいた。英語が得意なのはそれが原因。<br />
・特定の話題に対して「おかしい」人間になる。<br />
・友人に対して気遣いは出来る。だがそれが本当に気遣いかというと微妙。彼の言う友人は、ただの「道具」あるいは「同類」かもしれない。<br />
・わりと大食い。金魚すくいが得意。<br />
・別の黒崎くんと違って人脈が広いわけではない。怪奇系の人脈は広い。<br />
・だからといって見えているわけではない。誰にでも見えるくらい強い怪異は見える程度。強いて言うなら、怪異の側から嫌われる体質ではある。<br />
・勘が良い。<br />
<br />
＜館長＞<br />
・朽木美術館（プライベート・ミュージアム）の館長。<br />
・金持ち。とりあえず金持ち。使っても使ってもなくならない財の持ち主ではないかと黒崎に思われているし、本人はそれを否定しない。<br />
・人と会うときに名乗る名前は毎回違う。話を合わせるために同じ名前を使うことはあるが、事件一件ごとに名前が違うイメージ。たいていの人間はそれに気付かない。勘が良い人は気付く。朽木とは絶対に名乗らない。<br />
・「私」「お前」<br />
・４０代前後。おそらく欧米系の血が混ざっている。背が高い。彫りが深め。青い目。良い男。大体いつもスーツ。<br />
・ありあまる財を使って変なものを集めるのが趣味。<br />
・落ち着いた性格と見せかけて、わりとお茶目な反応をしたりする。<br />
・黒崎の事情は大体知っている。<br />
・物に対してある程度の執着を持っている。展示物の入れ替えは館長と黒崎が手分けして行う。<br />
・やたらとグルメ。下手なお菓子とか食べない。コーヒーや紅茶を淹れるのは得意。そしてそれを人に振る舞うのも得意。<br />
・基本的に黒崎のことは使いっぱしり&zwnj;みたいに扱っている。<br />
・怪異を外側から観察する人。<br />
<br />
<br />
＜お嬢さん＞<br />
・館長を「おじさま」と呼び慕う少女。黒崎とは違う高校の子。どこかのお嬢様学校。<br />
・ツインテールが似合う小柄な子。フランス人形みたいだ、という印象。館長とはおそらく血が繋がっていて、こちらの方が欧米系の血が濃い。<br />
・展示物についてはまったく興味がなく、ひたすらおじさまに会いにくるだけ。怪異にいろんな意味で嫌われるタイプ。歩く盛塩、みたいな。<br />
・「あたし」「あなた」<br />
・黒崎との仲は微妙。<br />
・料理は苦手。手先は器用ではない。ただし化粧や着飾ることについては得意。<br />
・世の中そういう人間がいるのね、で大体終わる。<br />
・この美術館唯一の清涼剤的役割。館長もお嬢さんの前では形無し。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
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            <name>瑞樹</name>
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