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bernadette

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ジャックとノインテ・フィア



 薄紙で包まれた花の種を受け取った魔女は、整った顔に嬉しそうな笑みを少しだけ浮かべた。

「ありがとう。助かるわ。ちょうど赤色の種がなかったものだから」
「これくらい大した手間ではありませんよ。御用命がありましたら、また、このペイジまでどうぞ」

 赤い花を咲かせる種と引換に、受け取ったのは白い花びらだった。柔らかな布に包まれた花びらは摘まれてそれなりの時間が経っているはずにも関わらず、一向に枯れる様子を見せない。慎重に布を畳み、トランクにしまった。漂ったのはなんとも言えない甘い香りだ。花びらでさえこんなに香るというのならば、花そのものはどれだけ強く香るというのか。しかしそれを問いかけるには、ジャックとこの魔女の間柄はまだ未熟といったところだ。そして、知ったところでおそらく後悔するであろうことはなんとなくではあるが感じられた。

「では、ごきげんよう。ジャック・ペイジ」
「ごきげんよう、『宝石の魔女』フローライト」

 紫と緑の目を持った蛍石の魔女は、花の種を大事そうに抱え、一礼したかと思うと、次の瞬間には姿を消していた。

「甘い香りがする」

 後ろでずっと様子を窺っていたノインテ・フィアが呟いた。ジャックが教育したとおり、よほどのことがない限り彼は口を開かず、動かない。まだ知識や常識が身についていない彼は主たるジャックに従順で、素直だ。乾いた地面に水が染み込んでいくように、彼は教えたことをすぐに吸収する。いつか花を咲かせる日も近いのだろうか、と手にしたトランクを見下ろした。
 すんすんと、まるで幼い子供がするように、ノインテ・フィアが鼻を鳴らす。トランクにしまいこんでもなお香る花の芳香を追おうとしているようだった。

「あの花の特徴さ。たとえ花びらひとひらだろうと、この甘い香りで人を誘う」
「誘う? なぜ?」
「なぜだろうね。ただ、この花びらは決して食べてはならない。それだけは確かだ」
「猛毒だから?」
「近い。人によっては猛毒になり、人によっては至上の薬となる」
「ふくざつだ」

 表情の薄い顔に少しばかり苦さが浮かぶ。ジャックは彼の頭をひと撫でした。教えられるだけではなく、考えることも必要だと言い聞かせ、歩き出す。ノインテ・フィアは黙々と、ジャックのあとをついてくる。歩きながら、彼はジャックの言葉の意味を考えているようだった。




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