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bernadette

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邂逅



「……あっ」

 ライラの手から滑り落ちたペンは床を転がり、小さな可愛らしい靴の前で止まった。ライラが慌てて身をかがめるよりも早く、まだまろい指先がペンを優しく拾い上げる。足元に落としていた視線を上げると、賢そうな緑の瞳とぶつかった。エメラルドを思わせる、澄んだ緑色の目をした少女はにっこりと笑みを浮かべていた。

「はい、お姉さん。どうぞ」

 長い髪をリボンでハーフアップにした、まだローティーンだろう少女は愛らしい。上流階級の生まれなのか身につけているものや仕草、漂う雰囲気すべてが上品だ。ぼんやりと、ああ、良いなあ、と思った。こんなに可愛らしい少女だ、あと五年もすれば、それは素晴らしいレディになるだろう。
 少女に魅入られたライラよりも先に、ペンを受け取ったのはアレクセイだった。それまでライラの一歩後ろにいた彼は、音もなくライラと少女の前に体を滑り込ませ、差し出されたペンをやはり音もなく彼女の手から取った。決して乱暴ではないが、どこかぶっきらぼうな動作は彼らしくない。目を瞬かせるライラに対し、少女は天使のような笑みを浮かべたままだ。アレクセイの、ともすれば不機嫌さを感じさせる動きに気分を害した様子はない。

「あ、ありがとう、お嬢さん。助かったわ」
「どういたしまして。それじゃあ、あたし、行きますね」

 ぴょこん、と一礼した少女は、スカートの裾を揺らめかせ雑踏に戻っていく。少女の背中はどんどん小さくなり、やがて見えなくなった。
 アレクセイの手がライラのジャケットをつかみ、小さく引っ張ったその動きに、ようやく我に戻った。あんな幼い少女に見蕩れていた自分が妙に恥ずかしく、ライラは少年の目をまっすぐに見返すことなく、なあに、と答えた。
 目の前に差し出されたのはペンだ。

「はい、おねえさん。どうぞ」

 さっきの少女がしていたように、両手で、さして高くもないライラのペンを差し出している。あの少女とアレクセイの姿が重なった。出身どころか名前以外の何も分からない少年の動きはなめらかで、優雅ささえ漂う。上流階級で生まれ育ったのではないかと思わせるほど堂々と、それでいながら圧迫感を漂わせることのない洗練された動きは、まだ成長しきらない少年の外見と絶妙なバランスを保ち共存している。無理をした大人らしさではない、身の丈にあったアレクセイの動作はとても好ましい。
 ただ、あの少女と、バランスを保った上品な仕草が、よく似通っている気がするのだ。

「ありがとう」

 名前以外を語らない少年に、あの少女を知っているのか、尋ねたところで答えは返ってこないだろう。あの子、あなたの知り合いなの? そう問いかけようとした唇を一度閉じ、次に開いて出たのは簡潔な礼だった。
 たった一言だけにも関わらず、少年は嬉しそうに微笑む。それまでのかたくなな様子がまるで嘘のような、甘く蕩けるような笑みだった。


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