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bernadette

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ナナオと盃



 その日訪れた客は、祖父が残した蔵の中、そこに収められた品が欲しい、ということだった。
 よくあることだ。ナナオの祖父は収集癖のある人で、生前から客がきては物を買い、売り、預け、去っていった。そういう家に育った。祖父の死後は、祖父にくっついていたナナオが、彼の代わりになって客の相手をしている。高校生の少年がするには不安が残るが、やってくる客たちは、不思議とナナオに優しい。人であろうが、人でなかろうが、だ。
 額にもう二つの目を持った老人は、一本の瓶を持ってやってきた。

「この酒に合う盃があると聞いてなあ」

 そういうことなら、と蔵を開けたナナオの目に、最初に映ったのは小さな漆塗りの箱だった。古びてはいたがどこかを損なっているという訳ではなく、むしろ積み重ねた年月にふさわしい風格を醸し出しているように、ナナオには見えた。
 試しに手に取った漆塗りの箱は軽く、蓋もあっさりと開いた。後ろから覗き込んでいた老人が、中身を見てほう、と溜息をつく。酒を入れるのにちょうど良い、やはり黒い漆塗りの盃がそこに行儀よく座っていた。
 これで良いですか、と小声で問うと、老人は四つの目を細めてにっこり笑った。

「良い塩梅の盃だなあ。ほれ」

 黒い盃の底には桜の蕾が二つ並んでいる。それを指した老人は、持っていた酒瓶を掲げた。酒瓶の底に揺蕩うのは桜の花だ。この酒に合う盃というのも頷けた。
 老人は盃の対価に、一本の簪を置いていった。赤い珊瑚の玉がひとつ、簪を手にしたナナオは少し悩み、それを蔵の中に置くことにした。きっとこの簪も、あの盃同様、誰か必要とする者の手に渡るだろう。蔵の鍵を閉め、ナナオはそっとため息をついた。

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