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bernadette

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プライベート・ミュージアムにて

冬の終わりに訪れたその町にひっそりと佇む、ガイドブックにも載っていない美術館に、どうにもこうにも心が惹かれた。電車を降りてふらふらと、目的もなくレトロな町中をさ迷い歩いていたさなかに見つけたそこは、飾り気のない看板に「朽木美術館」とだけ書かれていて、いかにも個人が趣味で開いたような雰囲気を漂わせていた。大通りを外れて住宅が多く並ぶ小路の中、その建物は確かに、普通の家ではなく、美術館とは言わずとも、何かを収蔵していそうな外見はしていた。だが、何も前情報もなしに入るには気が引けるだろう。もしも私がこの町の観光客だったならば、興味はそそられようとも中に入ろうとは思わなかったに違いない。
 だが、ほんとうに、どういうわけだか、心が惹かれたのだ。魅力を感じたとか興味を持ったとか、そうではなく、心が惹かれた。ここに入らなければ、という義務感にも似た感情だった。気付けば春間近のまだ冷たい空気を切って、重厚なつくりのドアを開けていた。
 ドアの向こうにはガラス張りの短い廊下があった。向かって右側には小部屋があり、電気はついていなかったが、カウンターとスツール、背後の棚に並んだカップを見るに、美術館併設のカフェのような、そんな役割の場所のようだった。通路の向こうにはもう一枚の扉があり、おそらくそれを開いた先に展示室があるのだろうとあたりをつけた。
 おっかなびっくり開けた展示室のドアはやはり重く、中は廊下の明るさとは真逆の薄暗さだった。目が暗がりに慣れず、目の前が真っ暗になる。後ろ手にそっとドアを閉じたタイミングで、人が動いたような気配がした。

「いらっしゃいませ。一名様ですか」

 若い、少年と言ってもいいくらいの声だった。何度か瞬きを繰り返すと、薄暗い空間には抑えられてはいるが確かに照明が灯され、ドアを開けてすぐのところにカウンターが設置されているのが確かに見えた。そのカウンターに一人、腰かけていたのは少年だった。まだ高校生くらいか、精悍な顔立ちに残る幼さに一瞬、ここが美術館だという事実を忘れそうになった。最低限まで落とされた照明の中で、どうやら黒髪ではない少年の、赤みがかったその頭髪が妙に明るく見えた。

「えっと、はい、一人です」
「入館料に800円をいただきます。……今の期間は装身具を中心に展示していますが」
「あ、はい」



※いい加減赤髪の黒崎君のお話を書きたい
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