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bernadette

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初詣に行く話



 最近の女性は体型の問題から、着物を着る際にはウエストにタオルを巻く必要があると聞いたことがある。それを冗談交じりに世御坂に伝えると、彼はは、と鼻で笑った。

「良かったじゃないか、俺なら巻く必要がないからな」

 まったくその通りだった。そもそも男である彼は確かに細身ではあるが、着物を着る際に問題となるバストとウエストの差というものがほとんどない。楽で良いことだ、と思いつつ、彼の正面に回り、着物の前を合わせる。
 派手な色ではない。どこか曖昧な桜色や乳白色が混ざり合ったような淡い色合いの着物だ。桜と藤が描かれた着物は一目見て上等な物だと分かった。それを無造作に持ってきた彼に言わせてみれば、古くさい一品、らしいのだが。
 洋服同様着物にも流行り廃りはあれども、この柄ならば流行に左右されず着られる物だろうな、と私でも分かる品であるということは、古くさいと言いつつ世御坂もある程度考えて持ってきたに違いない。彼は身につける物にはよくこだわる。それが自分に似合っているか、周囲に馴染むか、など、など。正直着られれば良いという私にしてみればよくそこまで気が回るものだと感心してしまう。問題はそれらが女性用であるのに対して、それらを身につけるのが男だということだが、この際もうどうでも良い。彼は男物以上に女物が似合うのだから仕方ない。
 帯の色は山吹色と藤色の二本があったが、私は藤色を使うことにした。世御坂からも特に文句はない。

「この着物」
「はい」
「俺の母さんが、成人したときに買ったんだってさ」
「へえ」
「おばさ……カイエさんが言ってた」

 彼の叔母にあたる世御坂カイエの顔が思い浮かぶ。早くに亡くなったという母親に代わり彼を育てたのは世御坂カイエ、その人だ。母親によく似ているという彼がこの着物を着るということに、一番感慨を抱くであろう彼女はここにはいない。いわく、奈良の本家に新年の挨拶に向かったらしい。彼女が経営する店は世御坂青年が代理で店番をしているわけだが、それでも初詣くらいはしてこい、と言ったらしかった。同じように、バイトとして店番を任せられた私もこうして、新年の初詣に駆り出されることになった、という次第だ。
 そのめでたい行事にも女物の着物を着て向かうと言う辺りがなんとも世御坂らしくて微笑ましい。

「髪型どうしましょうか」
「かんざしあるだろ。それ使って」
「これまた……高そうなものを」
「カイエさんにもらった」
「あなた、結構カイエさんにもらってますよね」
「まあな」

 ほら俺、美人だし? 着せ替えしたくなるだろ? と冗談めいた口調ではなく淡々と、むしろ真剣さを醸し出すくらいの声色で言うものだから、私は思わず、残念な人ですね、と言ってしまった。なんとも残念なことだ。初詣で一体何人の罪のない男性陣がこの美貌に騙されることだろうか、と考え、さらに、その横に立つであろう私に突き刺さる男女問わぬ様々な感情の籠もった視線を想像し、やっぱり初詣止めましょうよ、と思わず弱音が出た。もちろん、世御坂には却下された。まあ、所詮、そんなものである。ああ、胃が痛い。

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