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bernadette

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おっさんしょうじょ

「先生の手」

 あまりに乾燥しているので、と少女が恥ずかしげに男の手を取りながら、銀色の缶の蓋を開ける。真っ白なクリームが詰められたそれからは、わずかに甘い香りがした。30を越えた男がつけるには少々ファンシーな香りだと思いつつ、それはあえて口にしない。少女は手慣れた様子で人差し指でそれを掬い、男の手の甲にそっと塗り込め始めた。手慣れた様子だがどこかぎこちないのは、男の手に自ら触れるという行為に躊躇いがあるからなのだろう。盗み見たその顔、その頬には赤みが差していた。
 少女の手は温かい。固かったクリームは少女の体温に馴染んでか、滑らかに男の手に染み込んでいく。甘い香りは一体何だろうかと考え、バニラだと思い至った。

「あの、これ、わたしがいつも使ってるクリームなので」
「ほう」
「だから、先生の肌に合わないかもしれませんけど」
「つまり、君とお揃いということか」

 あえておどけたように口にすれば、こちらを見上げた少女の顔がみるみるうちに赤さを増していく。震えた唇が何か言葉を吐き出そうとして、ぱくぱく動いたが、結局何も発することはなかった。潤んだようなその瞳に一瞬男の心臓が跳ねたが、かつてのように男に対して恐れを抱いているわけではないと知り、安堵した。少女の手はいまだに男の手を離していないし、少女の目が潤むのは反射的なもので、彼女は悲しくてもうれしくても恥ずかしくてもすぐに泣く。少なくとも以前のように恐怖の対象として見られているわけではないのだと、彼女の行動や言動から分かるようになれば、自然と男の心にも余裕ができた。

「良い香りだ」

 宥める意味を込めてそう伝えれば、少女は真っ赤な顔で俯いた。 

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