2015/06/23 Category : 奇談 和泉くんと生首と夏 うだるような暑さから逃げた先のスーパーマーケットで、クラスメイトを発見した。 ただし、鮮魚コーナーに並べられた生首だったが。「うわーやっべー涼しそー」 その辺りでもらってきたうちわで自分を仰ぎながら、和泉は呟いた。冷房が効いたスーパーの鮮魚コーナーに、ごろりと置かれたクラスメイトの首は物も言わない。ただ濁った目を和泉に向けるだけだった。 よくよく見ればクラスメイトの生首は白いトレイに載せられ、透明なラップがかけられた上に値札まで貼られていた。うおーすげーと額から頬を伝った汗をぬぐい、和泉は生首に一歩近付く。隣に並んでいるのは刺身だ。1パック398円から売られている刺身の赤とツマの白、クラスメイトの肌色は親和性がない。あまり美味しくなさそうだ、と素直に思ったが、口には出さなかった。 そういえば、ここ2日ほど、このクラスメイトを見ていない。「そっかーおまえこんなんなってたもんなー。じゃあ来れないよな学校なんて」 さらにうちわで仰ぐ。仰ぐ。仰ぐ。「おまえみっけたら先生に言うようにって言われてた気するわ、そういや」 なぜ先生がそんなことを言っていたのかが上手く思い出せない。よく効いた冷房で体が冷えていく。鮮魚コーナー独特の、生臭さが鼻につく。死臭。魚は死んでいるし、人も死んでいる。生首から血は滴っていないが、それにしたって人の首の断面はグロテスクだった。 このスーパーはとても寒い。「あ、そうだ。おまえ、先生に出された課題提出してないだろ。それで先生怒ってたんだわ。んで、おまえ見つけたら先生のとこにーって言われたんだ、そうだそうだ」 ばっかだなーおまえ宿題はちゃんとやれよ、と、普段ほとんど宿題をしないで居残りを命じられている和泉は言う。つんつん、と頬をつついてみた。予想外に柔らかかった。 値札を見る。398円(税抜)だった。「マグロと同じ値段かよーおまえ。うけるー」 安いのか高いのか分からないが、とりあえず、クラスメイトの生首はワンコインで買えるらしい。携帯電話を取り出し、間の抜けたシャッター音を立てて彼の首を撮った。濁った目が和泉を見つめている。暗く淀んだ眼球は、にんまり笑う和泉を寸分違わず映していた。「よーし先生に写メ送ろっと」 淀んだ目をした生首の写真を送り、和泉は一仕事終えた気分でうちわを仰ぐ。ついでに財布の中身を確認し、500円はあることを確認して、生首を手に取った。 体は十分に冷えている。夏の暑さから逃げ込んだスーパーから、そろそろ外に戻っても良いだろう。何せ和泉は暑いのは嫌いだが、冷蔵庫に閉じこめられる趣味はない。ましてや、冷凍される趣味も、だ。「あーなんか寒くなってきた!」 少し重い生首を片手に、和泉はレジに向かう。手にしたクラスメイトの肌はひやりと冷たく、そのくせどこか、生ぬるかった。 PR Comment0 Comment Comment Form お名前name タイトルtitle メールアドレスmail address URLurl コメントcomment パスワードpassword