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bernadette

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フローライトと鍵の魔術師

「宝物庫を知っている?」

 きらきら、きらきら。薄い紫の目が輝いていた。宝石のようなきらめきだ。きれいだなあ、と思わずため息ついた、その私の目の前で、まほうつかいは首を傾げている。まるで小さな子供のような傾き方だ。きれいな目をした魔女はそれを見て、おかしそうに笑った。

「あいにく、聞いたこと、が、ないな」
「本当に?」

 ふんわりとウェーブの掛かった、チョコレートの色の髪を指に巻きつけながら魔女はもう一度聞いた。まほうつかいは頷く。彼を見上げると、それがいったいどうしたのかと言いたげな顔をしていた。
 まほうつかいのコートの端を掴んだまま、私は少しだけ、そう、本当に少しだけ、紫の目をした魔女が言いたいことが分かった気がした。
 魔女は笑う。

「なら、良いんだけど」

 そんなはずはきっとない。まほうつかいの敵とも味方とも言わない魔女は、それ以上何も言おうとしなかった。宝物庫がどういうものなのか、それを知っていたらどうしたのか、何も。
 でも、考えてみれば分かるのだ。宝物庫というのなら、きっとそこには何か、大切なものが置かれている。じゃあ大切なものを置いたその宝物庫を守るにはどうすれば良い? 鍵をかければ良い。
 ――でも、その鍵を誰かが盗んでしまったら?
 私にだってすぐに分かってしまったことを、目の前のまほうつかいが気付いていないわけがない。不安になった私は掴んだコートの端を引く。頭にそっとのせられたのはまほうつかいの手だ。少し冷たい手が、さらさらと撫でる。

「言いたいことは、分かる。宝石の魔女」
「フローライトよ」
「フローライト。きみの言いたいこと、は、よく、理解した。理解した上で、言う。宝物庫、などという、大層なものなど、わたしは、知らない」

 言い切った魔法使いに、目の前の魔女、フローライトは、やはり笑っていた。

「それなら、そのままで。何も知らないままで。少なくとも、私たち『宝石の魔女』は、あなたに危害は与えないわ。追いかけもしないし、手を貸すこともしない」
「無関心、か」
「そう。そもそも、私もあなたもこれが初対面。ろくに知りもしない人を追いかけるなんてナンセンスだわ」
「だと、いうのならば。わたしと、この子を、放っておいてくれ」
「そうしましょう」

 あっさりと引き下がった魔女の目がゆっくりと瞬きをする。紫の目が、くすんだ薄緑になる。もう一度瞬きをすると、また緑に戻る。二色の瞳はやっぱり宝石のようにきれいだった。

「それではごきげんよう、鍵の魔術師とお嬢さん。良い旅を」

 煌く目をした一人の魔女は、スカートの裾をつまんで一言、風が起こったと思った次の瞬間には、その姿を消していた。




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