2014/08/01 Category : WR 吸血鬼殺しと魔術師殺し 計算された間を保って水滴が落ちる、その音をただ聞いていた。「あのね」 ベッドから甘い、少女の香りがした。「あのね」 その肉を食めば砂糖菓子のように甘いのだろうかと、同じ血の通った己の手を見た。大人になりゆく少年の、筋張った手だった。柔らかく、白い、少女の手とはかけ離れた無骨さは、同じ腹から生まれた兄妹とは思えないほど似ていない。 たとえ同じ血を分けていても、ふたりは別個の存在なのだ。「おねがい」 よく晴れた日の、点滴が落ちる音を聞く、たったふたりだけの病室で、まだ青年になりきれない少年は黙し続ける。 まだ幼い少女の手を、とることはない。 瞼を通して突き刺す光が覚醒を促す。寝ている間はカーテンを閉めているはずだが、無粋な同居人は我関せずと勝手に自分の起床に合わせてカーテンを開ける。そうなると彼より遅く起きるのが常の青年は、窓から差し込む日光で強制的に起こされてしまうというのが、ここしばらくの朝の出来事だ。何度言っても彼は自分の習慣を直そうとしないのだから、もはや諦めの域に達している。 仕方なく起きると、同居人は真っ白な頭髪を高く結い上げ、何か作業を始めようとしているようだった。「おはよう」「……おはよう」 精悍な顔立ちに眠気の類は一切ない。対照的にあくびを噛み殺した青年は、ベッドから這い出るとのろのろとキッチンに向かった。まずは冷蔵庫の中からミネラルウォーターのボトルを取り出し、乾ききった喉を回復させる。食事を作るのは青年の仕事だ。気品のある顔立ちをした同居人はまさしく上流階級の出身だったらしく、家事全般がこの歳になってもまともに出来ない。それで二十年以上どうやって生きてきたのか問い詰めたことがあるが、当然といえば当然の答えが返ってきたことはまだ記憶に新しい。※飽きた PR Comment0 Comment Comment Form お名前name タイトルtitle メールアドレスmail address URLurl コメントcomment パスワードpassword