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bernadette

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観賞用人魚の如く浮遊

水の中にいた。正方形の透明な水槽の中で魚のように、ふわふわと泳いでいた。泳ぐという言葉は適切ではないのかもしれない。水槽は八坂が体をくるりと丸めて、ようやく収まるほどの大きさだったからだ。体に合わない水槽に入れられた魚とはこのようなものなのだろうかと思う。水は心地良いが、些か窮屈だった。

「何をしている、八坂」

 どこからか声が聞こえ、振り向こうとしたが、水槽が小さいせいで上手く体が動かない。ひどくもどかしい。その声が聞こえたら、すぐに振り向かなければならないと八坂は知っている。誰に強制されたでもなく、八坂が、そう知っているのだ。
 ぺたり。ふれた水槽はどこか生暖かい。その向こう側に、黒いスリーピースの男がいた。

「人魚にでもなったつもりか」

 それは違いますよ二瓶さん。口に出したはずの言葉は泡となり、水面へと昇っていった。撫でた己の足は冷え切った人肌の感触だった。夢の中でさえ、八坂は八坂という少女以外にはなれないらしい。
 二瓶の手が水槽に触れる。ガラス越しに八坂も手を合わせた。金色のネクタイピンにはまったエメラルドの反射がガラスと水を通してもなお明るい。それは八坂の目を突き刺し、急速に夢を終わらせる。
 気付けば八坂と二瓶の間にガラスはなく、人魚になれなかった少女の足は二本、暗い地面に立っていた。


二瓶…悪夢商人
八坂…少女
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