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bernadette

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プライベート・ミュージアムにて3




 照明を最低限にまで落としたプライベート・ミュージアムの展示室は静かだ。心地よい暗さは人を眠りへと誘う。いつもそうだ。普段、十分なほど睡眠をとっているはずの黒崎も、いつもこの空間に漂う睡魔に勝てない。勝てた試しがない。
 黒崎の雇い主であるプライベート・ミュージアムの館長が、それを咎めたことはない。彼は、アルバイトの黒崎に対して、展示物に関する注意以外はほとんど口出しをしない。入場料としてとっている金にすら、何も言わない。人を信用しているというより、展示物、それ以外の物に対して興味がないのだと勝手に思っている。そして、それは間違っていない。黒崎も慣れたもので、バイトとして雇われた当初はそれに申し訳なさを感じていたはずだが、気付けば堂々と居眠りをするのが習慣になっている。普段座っている入り口の受付カウンターには、夏には卓上扇風機、冬にはミニストーブとひざ掛けが用意され、いかにこの環境を快適なものに出来るかに尽力していることも拍車をかけている。
 展示室の扉が開く。その音で目が覚めた。展示室の扉を挟んだ向こう側の明るさが逆行となって、いつも、入ってくる誰かはシルエットしか分からない。それで良いのだと館長は言う。こんな美術館に入ってくるような人間に、ろくな人間がいる訳がない、とは彼の言だ。ならばこの美術館を営業している彼もまた、ろくな人間ではないのだろう。もしかすれば、彼にアルバイトに誘われた、黒崎も。
 それでも、このプライベート・ミュージアムには誰かがやってくる。老若男女の区別なく、誰かが、ひと月ごとに変わる展示物に惹かれるように、あるいは、呼ばれるように。
 そうして今日も、黒崎はカウンターに腰かけ、客を待つ。
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