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bernadette

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出羽と和泉と秋津と復活

目を覚ますと、馬鹿、こと和泉がそこにいた。
 緩慢に瞬きをする。首を動かそうとしたが、どうにもうまく動かない。指先を震わせた。腕も、まるで自分のものではないかのように思った通りに動いてくれない。舌打ちしたくなった。だが、それすらも難しい。そうこうしている間に携帯ゲーム機で遊んでいた和泉が、出羽の起床に気付いてしまった。鋭い目が大きく見開かれ、その顔いっぱいに笑顔が溢れだした。

「あ! 出羽! 起きた!」
「……」
「せんせー! あきつせんせー!」

 うるさい、と言おうとしたが、やはり、声帯はおろか口さえ動かない。どういうことなのか。そもそもここはどこなのか。清潔な匂い。真っ白なシーツ。その上に投げ出されている己の手足の感触が遠い。音をたてて立ち上がった和泉が、椅子を蹴倒す勢いで保健室を出ていった。騒々しい足音が遠ざかる。
 やがて二人分の足音が近づいてきた。

「目を覚ましたか」

 穏やかな低音を聞くのは久々のような気がした。起きたばかりで状況を上手く呑み込めない出羽の中にも、秋津の声はすんなりと入ってくる。彼らの教師の声は安心感を生み出すのだ。大きな手が額に触れ、灰色に染めた前髪を寄せたようだった。

「出羽」

 案ずる響きというよりも、確認する意味を伴った呼びかけだった。動かない頭をなんとか動かし、小さく頷く。秋津の手は温かい。

「しばらく休んでいなさい。まだ、体を動かさないように。……和泉。出羽のそばにいてやりなさい」
「はーい」
「ひとまず日向たちを呼んで来よう。しばらく待っていてくれ」

 それだけ言い残し、白衣を翻した秋津はあっさりと部屋を出ていった。残された和泉は隠していた携帯ゲーム機を取り出すと、大きく欠伸をする。瞼が重い。

「出羽さー、大変だったんだぜ。おまえ、ばらばらになって売られてるんだもん」
「……」
「俺はスーパーでお前の頭みっけてー、先輩たちもスーパーで胴体みっけてー、手は紀伊と信濃が自販機で買ってきたらしいぜ。んで足はホームセンターのペットコーナー! しかも秋津先生! 先生、なんでペットコーナー行ったんだろな。ペット欲しかったんかな」

 知るかアホ。いつものように罵ろうにも声は出ない。さらに言えば、体が睡眠を欲している。まだ動いてはいけないと体のすべてが活動を拒否している。

「あ、出羽、あとで398円返せよ。お前の頭買ったの俺なんだから」

 スーパーに置かれていたという己の頭を想像し、さらにそれに値札がついていたらしいという事実を知り、笑っていいのか怒っていいのかよく分からない気分に陥った。和泉はいたって真剣な表情をしている。そうだよな、お小遣い、大切だもんな。思わず幼子を宥めるような言葉が口から出そうになったが、結局出ることはなかった。
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