忍者ブログ

bernadette

Home > ブログ > > [PR] Home > ブログ > 雑多 > リルフェンリードの悪魔憑き

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

リルフェンリードの悪魔憑き

「……きれい」

 リーゼロッテの空色の目を突き刺すような紅。曇り一つないガラスケースの中に鎮座した、それは赤い輝きとしか形容できないものだった。
 思わず彼女の横に佇む男を見上げた。端整な顔にはただただ真剣さばかりが漂い、灰色の目はガラスの向こうで誇らしげに姿を見せた赤い輝きにのみ視線を注いでいる。いつもの癖で掴んでいた男の服を引っ張るには気が引けた。彼がここまで真剣に『宝石』を見つめるその意味を、正確に理解していたからだ。
 レッド・ダイヤモンド。世界広しと言えど、純粋な赤色をしたダイヤモンドなど、数えるほどしか存在しない。その中でも『紅の女王』と呼ばれ称えられているレッドダイヤモンドが、今、リーゼロッテと彼の目の前に存在していた。
 『紅の女王』が女王たる所以は一切濁りのない赤色と、規格外のその大きさである。手のひらに載るほどの大きさで、きわめて緻密に、精巧にカットされたレッドダイヤモンドは、自身を照らす光をこの上なく魅力的に反射する。女王自身もさることながら、女王のカットを手がけた職人もまた、至高の職人だったに違いない。300年以上前に発見され、美しく磨き上げられたレッドダイヤモンドの輝きは、人々の目を惹きつけてやまない。
 空色の目を逸らし、リーゼロッテが見たのは、ガラスケースの内側、隅に追いやられた『紅の女王』のめでたい生まれのことだった。
 --今は無き宝石の都「リルフェンリード」の職人の手によって『紅の女王』はこの世に生を受けた。
 この街より遙か北、一年の半分を雪と氷に覆われた冷たい街。今ではもはや誰も住むものはおらず、吹きすさぶ雪によって埋もれてしまった宝石の都の名。この国の子ども達ならば誰でも知っている、おとぎ話の舞台の街は、しかし、リーゼロッテには言い表すことの出来ない、複雑な心境をもたらす。
 懐かしいのか、寂しいのか、悲しいのか、苦しいのか、愛しいのか。宝石の都の名はおとぎ話のタイトルとなって、子ども達の笑い声と共に溶けて消える。

「……ラグ」

 リルフェンリードの悪魔憑き。宝石の都に現れた悪魔は、瞬く間に街中の宝石を食べ尽くし、街を雪で覆わせたという。
 今度こそ、リーゼロッテは男の名を呼び、その服の裾を強く引いた。


※名前変えたい
PR

Comment0 Comment

Comment Form

  • お名前name
  • タイトルtitle
  • メールアドレスmail address
  • URLurl
  • コメントcomment
  • パスワードpassword