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bernadette

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七日間鉄道

窓の外は一面が銀世界だった。
 進めど進めど白い世界は変わらず、むしろしんしんと降っていたはずの雪が吹雪へと変わっていく。白い大地は広陵だが、その白さが寒々しさを誘い、霞んだ景色が見る者の心に影を落とす。景色を楽しむには殺伐とした窓の外の世界に、青年はそっとため息をつく。二段ベッドが二つ並んだコンパートメントの中に、青年の吐息は空々しく響いた。
 七日間の列車の旅はまだ始まったばかりだ。かつての故郷へ向かう長い列車は明るい照明に照らされ、足下のストーブが冷たい空気を和らげる。目を閉じれば外を過ぎる人々の足音や談笑する声がよく聞こえた。目的地まで何もすることのない、ただ無為に時間を過ごすであろう列車の中は、まだ人の活気で溢れている。
 コンパートメントの扉が遠慮がちに開かれたのは、青年が自分の荷物を整理し始めた頃だった。音に気付いて顔を上げると、立て付けの悪い扉の隙間からするりと人影が入り込んだ。細身の人影は不穏な音を立てる扉を空いた片手で優しく閉め、青年の方へ振り返る。寝台に広げていた本を片手に自分を見上げる青年に、入ってきた人影は小さく頭を下げた。
 まず目を引いたのは、肩より少し長い程度まで伸ばされた赤毛だった。黒いニット帽やタータンチェックのマフラー、黒いダッフルコート、青いジーンズ、黒いロングブーツ。暗色で統一された衣服とは裏腹に、見事な赤毛がアクセントのように自己主張をしている。後ろ姿から予想はしていたが、赤毛の人物は少女だった。それもおそらくこの国の出身ではないことは顔の造形から明らかで、年齢といい外見といい、この列車の乗客にしてはずいぶん珍しいタイプと言えた。まだ幼さの残る顔立ちは緊張しているのか強張っていたが、少なくとも悪い人物ではなさそうだと青年は評価をつけた。ドアを閉めて振り返るという一連の動作は柔らかで、手にした荷物や身につけた衣服、伸びた赤毛、それらがよく手入れされているのを見れば、善良な一市民であることは明らかと言えた。
 青年の向かい側に当たるベッドにそっと荷物を下ろし、赤毛の少女はもう一度頭を下げた。少女の癖なのかもしれない動作に、さらりと髪が音を立てて揺れる。少女の黒いニット帽は猫の耳のように頭頂部分が二つ尖っていて、そこを飾るチャームも同じように揺れた。

「こんにちハ」
「こんにちは、お嬢さん」

 この国の出身ではないという青年の予想はある程度当たっていたようで、少女の言葉は片言だった。発音がどこか平坦で、使い慣れない言葉を苦労して取り出しているかのようにゆっくりとした発声だ。それに合わせて青年も語調を柔らかに、発声をゆっくりに心がけて挨拶を返した。賢そうな茶色の目はまっすぐに、青年の目を見つめ返してくる。

「同室の、者、デス。どうゾ、よろしくお願いシマス」
「こちらこそ。言葉は、通じるかな?」
「ハイ。ゆっくり発音していただけテ、うれしいデス」

 そこで少女は少しだけ、口元を緩め笑みを浮かべた。安堵の表情に近い。つられるように青年も笑い返す。悪い人物ではないという予想も、どうやら当たりそうだ。

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