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bernadette

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いずれ死にゆく世界

実はちゃんと作ってるんだけど、それに関する話をほとんど書いていないから分からない世界観の説明をどこかでするべきだと思ったので、覚え書き程度に書いておく。

・とある病から滅んでいく世界

現代から地続きの世界観。

①遺伝子操作により、産まれてくる子供の容姿を選べるようになった時代。
②睡眠時間が長くなり、やがて死んでいく「死眠病」が蔓延し始める。「世界の果ては青色をしている」はこの世界の初期段階。

□死眠病
睡眠時間が長くなる。ナルコレプシーのように、日常生活の中で急激な眠気に襲われてそのまま眠ってしまう、というのが初期症状。ナルコレプシーと違うのは、その後は徐々に睡眠時間が長くなり、起きている時間が極端に短くなる。段階が進むごとに身体機能の低下が起こる。難聴や幻聴、幻覚という症状も見られる。最終的には眠ったまま体が機能を停止していき、死に至る。原因不明。罹患者は遅かれ早かれ眠り続けるようになる。

③それとほぼ同時期に「羽化」という現象が世界各地で見られるようになる。羽化は基本的に第二次性徴を迎える前の子供に起こり、その名の通り、背中に翼が生えることから羽化した子供を「天使」と呼ばれることがある。

□羽化
第二次性徴を迎える前の子供を中心に起こる現象。背中から白い翼が生える。背中の違和感や発熱、倦怠感が主な症状。原因不明。遺伝子の問題とも言われているが、世界各国、人種の区別なく起きる現象のため、結局解決策は何も見つからなかった。
なお、羽化した子供は成長=老化が極端に遅くなるほか、背中に異物があるという状況から日常生活を送ることがきわめて困難。事態を重く見た各国の働きかけによって、羽化した子供を収容する施設が建てられる。この翼では飛ぶことは出来ず、ただのお飾りと言って良い。

④羽化した子供たちを「天使」として崇拝する宗教団体が現れ始める。死眠病は、生まれる命に手を加えた人間への神からの制裁であり、新しい人類として天使を遣わしているのだ、という教義。次第に受け入れられ始め、一つの都市を作るほどになる。

□宗教団体
羽化した子供たちを収容していた施設が立ち行かなくなり始めると、それに代わって羽化した子供たちを集め、独自の施設に迎えるようになる。子供たちは天使と呼ばれることになるが、実際は研究対象であり、洗脳によって都合の良い偶像あるいはモルモットとして生きることになる。
団体の最終目標としては天使になることがあげられる。そのために羽化した子供たちの研究が進められている。

⑤死眠病患者の冷凍保存が行われるようになる。

⑥宗教団体の企みにより文明が崩壊し始める。国家の崩壊。都市という形で残るか、そもそも滅びるか。

⑦数百年単位が経ち、それなりに平和にはなるが、天使は一つの種族として存続し、都市を形成している。各地に都市国家が点在し、それなりに人間が生きている。死眠病は発病者は減っているものの、未だ蔓延している。現在の拍手ページに載せている話の世界観はこの時点。

以上。いつかちゃんと書きたい。
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楽園から追い出された人

・クド・コーヘ
・ベネトナシュ(ベネット)
・シンジュ

<三日目>
 三日目の朝は雷雨だった。
 背中の痛みで目が覚めたクドの気分は最悪だった。常より一時間以上早く目覚めたが、眠気よりも苦しみの方が勝った。ベッドサイドの携帯端末に手を伸ばし、スリープモードに移行していたナビを起動する。黒い画面に、白い破片が舞い落ちる。夜に降る雪のような起動画面は数秒で、ぽん、と軽い音を立てて彼の相棒は目を覚ました。端末のスピーカーをオンにする。耳元で聞くより不明瞭だが、まるで同じ部屋にいるような音声を、実はクドは気に入っていた。

「ベネット。朝の頭の運動だ。今日の天気と……気圧の変化を簡単に」
『グッド・モーニング、マスター・クド。今日の天気は雨のち曇り。気圧は午後にかけて徐々に上がる。気圧変化の予想数値とグラフは必要か』
「いらない。俺が寝ている間に連絡は」
『ショートメッセージが二件。どちらもレイ・ブローディ博士からだ』
「内容は」
『午前三時四六分に【後片付けはまだ終わらないのか】。その五分後に【すまない、そちらは早朝だったか。後で連絡をくれ】』
「時差を忘れていたのか。あの天才は妙なところで抜けている」
『新しいニュースが五件。読み上げるか』
「いらない」

 ベッドの中で寝返りを打つ。うつ伏せになろうが仰向けになろうが横になろうが、背中の痛みは収まらない。ひゅう、と長く息を吐く。ホテルの空調は温度管理は完璧だが、湿度管理はまったくなっていない。乾燥した空気で口の中が乾ききっていた。


<楽園>
 背中に白い翼を背負った子供たちは皆、幸福そうな顔で遊んでいる。あるいは、幸福であるという意識を全身にまとい、神に愛される至上の喜びを体現している。
 歪んだ光景だ、と一人一人の首をはねてしまいたい気分だった。

「ヤツらは知らないんだろう。柵の向こう側の汚濁を。渦巻く人間の欲望を。腹を捌けば内臓が飛び出て、頭を割れば脳味噌がぶちまけられる。何が天使だ。お前たちも同じ、人間だろうに」

 幸福と秩序で満ちた世界から、惨憺たる無秩序の世界に落ちた人間は、それまでの楽園を信じることができなかった。己のいた神の膝元は、愛に満ちあふれる空間が、どれだけの犠牲の元に成り立っていたのか、その残酷さに気付いたが故に、もう戻れなかった。
 かつて天使だったはずの少年の目の前で、とある子供が死んだ。それがそもそもの始まりだった。病に冒された体で血を吐きながら、天使であった少年に憎悪と苦痛と羨望を叫び、死んでいった。
 呪われてしまえ、とその子供は言った。その瞬間から、清らかで神に愛されるはずの天使は、翼を失ったのだ。

<呪い>
 呪われてしまえ。呪われてしまえ。呪われてしまえ。お前たちは天使だと言うがそれは嘘だ。天使だというのなら空を飛んでみろ。偽物の翼で飛べるものなら飛んでみろ。この街の上を。あの高層建築の屋上から。お前たちは飛べないだろう。醜く落ちていくだろう。私たち人間と同じように、泣き叫びながら地面に落ち、これ以上ないほど悲惨な死体を晒すだろう。脳漿を、内臓を、血を、汚物をまき散らし、この世界を恨みながら、飛べない己を憎みながら、死ぬだろう。病に冒された私のように。醜く死に、その亡骸は一生晒されるだろう。
 呪われてしまえ。呪われてしまえ。呪われてしまえ!
 何が神だ。何が天使だ。何が幸福だ。何が秩序だ。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。神は何故私を助けてくれない。何故飢えた人たちに食べ物を恵んでくれない。何故病を治してくれない。何故、翼が生えただけの異常者ばかりに幸福が降る。
 お前の一生に呪いあれ!

<解答>
 早く地下街に戻りたい、と思った。あの、コントロールされた空調の中を、清潔な世界を歩きたい。朝も昼も夜も変わらず正常な街の中で生きていきたい。地下鉄は毎日時刻表通りに運行され、安全に作られた食事が保証され、退屈なニュースが配信される。病気にかかれば病院を受診し、治療し、また元通りに生活を営む。貧富の差は少なく、どんなに貧しくとも最低限の生活が保障される。
 分かっているのだ。あの日、楽園から落ちた天使は混沌の中に生きることは出来なかった。管理された楽園から、管理された地下街へ、ただ、移動しただけだ。己の身体を使い、荒れた人波の中を歩くことなど、出来なかったのだ。この街が正しいのか間違っているのかと問われれば、圧倒的に間違っている。貧しい者は今日という一日を生きるのにも苦労しているというのに、富んだ者は豪奢な食事を捨てる。力ない者は力ある者に圧倒され、幼い子供でさえ犠牲になる。それが許されるこの街は、間違っている。
 だが、それを否定することはクドには出来ない。クドに、否定することは許されない。彼らの亡骸を踏みつぶしながら安穏と生きてきた天使に、理解できない世界だとしても、それが彼らの世界なのだ。富んだ者は何かの弾みに転落し、貧しい者がそれに取って代わるだろう。幼い子供は成長し、かつての己が受けた苦しみに克つだろう。力ない者はいつか、力ある者として誰かを助けるだろう。理不尽と暴力と退廃で満ちた世界には、可能性がある。
 そうでなければこの街がこんなにも人の声で満ちあふれるはずなどないのだ。

クーロンのような話



 数年ぶりの地上は埃を含んだ空気が舞い上がり、肺が軋むようだった。息を吸うたび、体の内側に黒い泥がへばりつくような不快感がこみ上げてくる。空はあんなにも青いというのに、遠く広がるビル群は灰色にくすみ、漂う大気は曇ったかのように濁っていた。この程度の空気汚染度ならば人体に大きな影響は出ないだろう、と、ナビが下手な慰めを耳元で囁く。多くの人間が地上で生きていられるのだから、たかだか汚れた空気を吸ったところで死にはしない、とも。
 まったくもってその通りだ、とクドは投げやりに答え、大きく息を吐いた。額に上げていた視覚補助ゴーグルをつけ直し、目の前にそびえ立つ壁に向かう。その向こう側にあるであろう、無計画に、無秩序に広がった建造物たちの墓場は、高い壁に阻まれ高層部分しか見えず、その全容は中に入らなければさっぱり分からない。壁は今まで経た年月を誇示するかのように古く、年老いた老兵のような冷淡さで街に訪れる異邦人を睨み付けている。来るもの拒まず、ただし去るものを許さない。城塞都市のごとく閉鎖され、覆い隠された城非ざる街は、己の姿を見たものを決して手放さない。
 これ以上なく面倒で、虚脱感ばかりが体を支配する、そんな気分だった。出来ることならば踵を返し、地下街の己の部屋に戻ってシャワーを浴びて寝たいところだが、目標設定されたクドのナビはそれを許さない。無慈悲なまでに追い立ててくる。

「オーケー、ベネット。行けばいいんだろ、行けば」

 自分に言い聞かせる意味も込めてあえて大きな声で応えると、相棒たるナビは満足げに、視覚補助ゴーグルに入場口までの最短ルートを表示させた。融通の利かない人工知能に舌打ちをしたい気分になりながら、それでもクドは黙って壁へと歩き始めた。出来るだけ空気を吸いたくないと浅い呼吸を無駄に繰り返し、ブーツの底を高く鳴らしながら、薄汚れた壁にぽっかり空いたゲートへと向かう。鷹揚に構えた街の入り口は、まるで地獄への門のようだった。





 街そのものに入るのは簡単だ。ゲートで入場したい旨を伝え、身分証明書を提出し、書類に必要事項を記入した後、宣誓書にサインを書き込めば終わる。今時紙媒体の書類と宣誓書など、と一笑に付したくなったが、この街は外側に比べて半世紀は文化が遅れている。外との関わりを断絶させているのだから、それも当然だろう。もとは計画や予測をまるっきり無視した建築群、それだけだったはずの場所は、高い壁で周囲を囲まれて以降、独自の文化を形成させてきた。誰かの悪意と謀略に満ちた街は混沌とした様相で、外部からの圧力と統制をまるっきり無視し、誰の手にも負えない箱になっている。そこに居心地の良さを求めた後ろ暗い事情を持つ者たちが集い、売春、薬物、暴力、異常嗜好と次々と箱の中に詰め込んだ結果が、この高い壁に囲まれた陸の孤島である。
 コピーされた宣誓書に目を通す必要はない。一時滞在者であることを示す青いリストバンドと一緒にカバンに詰め込んだクドを、門番は愛想笑いで見送った。

「では、良い滞在を」

 そうはならないだろうな、と吐き捨てたくなるのを飲み込んで、クドは壁の内側に入った。




ご飯が食べられない那岐くんのお話

 学校近くの惣菜屋の、キッシュがとても美味だと言ったのは黒崎だ。学生や近くの会社で働く人々で溢れかえる昼間を過ぎ、おやつの時間に近い頃訪れると、出来立てのキッシュが食べられるという。
 何故そんなことを知っているのかと聞くと、彼のバイト先の雇い主が、この惣菜屋の主人と懇意にしているからだと言う。ちなみにキッシュは雇い主の好物であり、彼は時折、アルバイトの黒崎を買いに走らせるらしい。キッシュの味の良さは黒崎と、彼の雇い主二人分のお墨付きだ。

「そんなもんだから、まあ、大丈夫だよ。あの人、食べ物の好き嫌い多いくせに、この店のは何を食べても旨いって手放しに誉めてたから」

 紙袋から取り出したのは白い包みで、その一つを那岐に差し出しながら、黒崎は自分の分の包みを器用に開けた。とたん、クリームと卵、チーズと野菜の香ばしい香りが部屋に広がり、今更のように空腹を思い出す。程良く焼き目のついたキッシュは分厚く、一切れで十分腹が膨れそうだ。おそるおそる受け取った包みはまだ、ほのかに温かい。
 さっさとかぶりついた黒崎を後目に、両手で受け取った食べ物をじっと見つめた。那岐にしてみれば誰かは分からない誰かが作る、温かな食べ物だ。次いで差し出されたのは缶コーヒーだった。普段はブラックを飲む彼にしては珍しく、砂糖とミルクがたっぷり入ったものだった。こちらも温かく、惣菜屋から那岐の家に来るまでの間、自販機かどこかで買ってきた物だろうことは容易に知れた。
 那岐がキッシュに口を付けたのは、先に食べ始めた黒崎が食べ終え、食後の一服と言わんばかりに缶コーヒーを飲み始めた頃だった。

「な、旨いだろ」

 分厚いキッシュのほんの端を少し、それでもチーズの深みと野菜の素朴さが舌の上で優しく広がった。想像したよりもあっさりとした風味で、疑い深い那岐の味覚を滑り、胃を満たしていく。美味しい、と小さく応えると、黒崎はそうだろう、と満足げに笑った。

「昼の弁当も旨いんだよな。つっても競争率高いんだけど」
「……」
「あとあの人美味しいって言ってたのは、カスタード入ったアップルパイもだな。おすすめ。次行ったときにあったら買ってくるわ。甘いもの別に嫌いじゃないだろ?」
「……お願いします」
「コーヒーも飲めよ。甘いもの摂ると疲れとれるっていうしな」
「ありがとうございます……」
「あーほら泣くなよ。せっかく旨いもの食べてるときにさー」

 無造作に放られたのはハンカチだった。几帳面に畳まれたハンカチを借りつつ、知らない洗剤の香りに心底安堵した。鼻をすすると間髪入れずにポケットティッシュが飛んできたが、ベッドサイドにある箱ティッシュを使うことで、新品のそれを開けることはなかった。

「……おいしいです」

 もう一度口に出す。悪意も何もない、誰か大勢のために作られたような、安全で温かな食事は久しぶりだった。好意とその向こう側にある害意に傷ついていた味覚が喜んでいる。さらに一口、一口と口に運びながら缶コーヒーを開けると、黒崎は少しだけはにかんだ。

リルフェンリードの悪魔憑き

「……きれい」

 リーゼロッテの空色の目を突き刺すような紅。曇り一つないガラスケースの中に鎮座した、それは赤い輝きとしか形容できないものだった。
 思わず彼女の横に佇む男を見上げた。端整な顔にはただただ真剣さばかりが漂い、灰色の目はガラスの向こうで誇らしげに姿を見せた赤い輝きにのみ視線を注いでいる。いつもの癖で掴んでいた男の服を引っ張るには気が引けた。彼がここまで真剣に『宝石』を見つめるその意味を、正確に理解していたからだ。
 レッド・ダイヤモンド。世界広しと言えど、純粋な赤色をしたダイヤモンドなど、数えるほどしか存在しない。その中でも『紅の女王』と呼ばれ称えられているレッドダイヤモンドが、今、リーゼロッテと彼の目の前に存在していた。
 『紅の女王』が女王たる所以は一切濁りのない赤色と、規格外のその大きさである。手のひらに載るほどの大きさで、きわめて緻密に、精巧にカットされたレッドダイヤモンドは、自身を照らす光をこの上なく魅力的に反射する。女王自身もさることながら、女王のカットを手がけた職人もまた、至高の職人だったに違いない。300年以上前に発見され、美しく磨き上げられたレッドダイヤモンドの輝きは、人々の目を惹きつけてやまない。
 空色の目を逸らし、リーゼロッテが見たのは、ガラスケースの内側、隅に追いやられた『紅の女王』のめでたい生まれのことだった。
 --今は無き宝石の都「リルフェンリード」の職人の手によって『紅の女王』はこの世に生を受けた。
 この街より遙か北、一年の半分を雪と氷に覆われた冷たい街。今ではもはや誰も住むものはおらず、吹きすさぶ雪によって埋もれてしまった宝石の都の名。この国の子ども達ならば誰でも知っている、おとぎ話の舞台の街は、しかし、リーゼロッテには言い表すことの出来ない、複雑な心境をもたらす。
 懐かしいのか、寂しいのか、悲しいのか、苦しいのか、愛しいのか。宝石の都の名はおとぎ話のタイトルとなって、子ども達の笑い声と共に溶けて消える。

「……ラグ」

 リルフェンリードの悪魔憑き。宝石の都に現れた悪魔は、瞬く間に街中の宝石を食べ尽くし、街を雪で覆わせたという。
 今度こそ、リーゼロッテは男の名を呼び、その服の裾を強く引いた。


※名前変えたい